【現地スタッフの声】助産の現場を知る私だからこそ、できる支援を。

PHJカンボジアの母子保健改善活動を支えるのは、現地の状況を誰よりも理解している現地スタッフたちです。今回登場するのは、助産師のソチェックさん。 かつて保健センターで主任助産師として3年以上勤務し、数えきれないほどの出産に立ち会ってきた彼女は、なぜ今、PHJのスタッフとして村々を回っているのでしょうか。現場を知る彼女の言葉は、私たちがなぜこの支援を続けるのか、その答えを教えてくれます。

 

皆さん、こんにちは。PHJカンボジア事務所でプロジェクト・アシスタントとして働いているソチェックです。
私はPHJに入職する前、PHJの事業地内の保健センターで3年以上、主任助産師として勤務していました。
今日は、私がなぜ現場の助産師からNGOのスタッフになったのか、そして今どんな思いで活動しているのかをお話ししたいと思います。

孤独と不安のなかでの出産介助
保健センター時代の毎日は、まさに戦いでした。助産師としての妊婦健診や分娩介助だけでなく、一般外来、予防接種、さらには怪我の手当や薬の処方まで、あらゆる業務をこなさなければなりませんでした。
特に苦しかったのは、圧倒的な孤独感でした。助産師はほかにもう一人いましたが、出産の際に私だけが助産師として立ち会うことが多かったのです。。
教科書では学んでも、実際に経験したことがない症例に直面するのは恐ろしいことでした。
予期せぬ双子の出産を無事に終えて胸をなでおろしたこともあれば、同時に高血圧などの危険兆候ときにすべきわからないという恐怖覚えています。複雑な応急処置を行うとき、の知識が限ていると感じ、母子の命をッシャーに押しつぶされそうでした。

保健センターの分娩室
保健センターの分娩室

決して忘れられない、あるお母さんのこと
私の心には、今も消えない思い出があります。以前、2度の流産経験のある妊婦さんに「大きな病院で産むように」と勧めました。しかし彼女は「家から近い方が安心だから」と、保健センターでの出産を希望されたのです。
そして、彼女は出産後大量出血に見舞われました。すぐに救急車に連絡をとり、病院への搬送手続きをすすめましたが、病院への照会手続きに時間がかかりました。手続き完了後に搬送したものの、病院に到着した時にはもう手遅れでした。この時私が必死に蘇生を試みたことを今でも忘れません。

のちにPHJの活動である助産師会議を通じて、大量出血時の緊急搬送の事例について話し合いで、当時病院への搬送が遅くなってしまったのは、病院の照会システムの問題だということが分かりました。

助産師研修

現場のニーズを、支援の形に変える
こうした経験があるからこそ、私はPHJでの仕事に強いやりがいを感じています。現在は家庭訪問をメインに、助産師や保健ボランティアの研修、助産師会議の運営などを担当しています。
私は現場を知っています。助産師がどんな器具を必要としているか、どんな知識があればパニックにならずに済むか、彼女たちの直面する課題が痛いほどわかるのです。
PHJが行っている「助産師への研修」「医療器具の供給」「24時間の監督体制」といった支援は、どれか一つが欠けてもいけません。
質の高い医療サービスを提供し、それを地域の人々が安心して受けられるようにする。この「補完し合う仕組み」こそが、多くのお母さんと赤ちゃんの命を救う鍵になると信じています。

かつての私と同じように、現場で一人、不安と戦っている助産師たちを支えるために。 私は今日も、地域の村々や保健センターを回ります。

保健ボランティアによる家庭訪問を確認するソチェックさん

シェムリアップ州における3年間の歩みと変化―安心・安全なお産を支える仕組みづくり―

安心して妊娠・出産ができる環境づくりを目的としたJICAの草の根技術協力事業「シェムリアップ州ソトニクム保健行政区における安心安全なお産のための保健システム強化支援事業」は、 2023年4月に開始し、3年間の活動を経て2026年4月3日に終了しました。

事業地であるカンボジア国・シェムリアップ州は、世界的な観光地として知られる一方で、医療へのアクセスが困難な地域もあり、不安を抱えながら出産に臨む女性もいました。雨季には道路が冠水し、保健センターにいくことが困難になる地域もあり、地域間に格差が存在していました。

雨季の保健センターまでの道が冠水

こうした状況に対し、PHJは、現地の既存の仕組みを活かしながら、地域の人々自身が主体となって支え合う体制づくりを重視してきました。外部からの一時的な支援にとどまるのではなく、活動終了後も継続していくことを見据えたアプローチです。

助産師の技術訓練風景

1)助産ケアの質向上に向けた人材育成
事業地には27か所の保健センターがあり、助産師が24時間体制で地域の妊産婦を支えています。最新のガイドラインに基づく研修や、定期会議での症例検討を通じて技術面だけでなく、丁寧な説明や寄り添う姿勢といった接遇面の改善も見られるようになりました。

2)保健ボランティアの自主性
医療者と地域住民の架け橋となる保健ボランティアの育成にも取り組みました。定期的な会議や研修を通じて知識や伝え方を学び、活動の継続参加者を表彰することで、誇りと責任感を高めました。その結果、金銭的なインセンティブに頼らない自発的な活動が広がっています。

保健ボランティア研修の様子

3)安心安全なお産の促進
助産師による Q&A セッションや、保健ボランティアによる家庭訪問や保健教育を継続的に実施しました。その結果、妊娠中の過ごし方や栄養に関する理解が深まり、地域の人々の意識や行動に変化が見られるようになりました。また、コロナ禍で低下していた保健センターへの信頼も徐々に回復し、妊婦健診や医療施設での出産の重要性への理解が広がっています。特に、町の中心地に近い地域では道路状況も改善されてきており、病院での出産を選択する女性が増えてきていることがわかりました。
以前は妊婦の健康を害する恐れのある伝統的な習慣が根強く残っていましたが、現在では妊娠中の過ごし方や栄養の取り方についても理解がすすんでいることが現地の人々の声として届くようになってきました。

村での保健教育の様子

こうした取り組みにより、医療と地域住民の関係が向上していきました。
活動の積み重ねの中で、コロナ禍で医療施設の利用が減少していた保健センターへの信頼も徐々に回復し、妊婦健診や医療施設での出産の重要性に対する理解が広がっています。このように地域の意識や行動に変化が見え始めていることは、3年間の取り組みの成果のひとつです。

【事業終了後の現地の人々】
活動終了後も取り組みが継続されるよう、仕組み・人材・地域のすべての側面から持続性の確保に重点を置いてきました。定期的な振り返りや指導、助産師会議は行政の通常業務に組み込まれており、今後も継続的に実施される体制が整っています。今後は、現地の人々の手によってこれらの取り組みが継続・発展し、より多くの母子の健康が守られていくことが期待されます。

保健行政区スタッフによる保健センター運営の確認と指導

【本事業はJICA草の根技術協力事業とサポーター企業・団体、個人の皆様からのご支援により実施しました。】

未来の命を守る「お産準備キット」をお届けしました!

私たちが活動しているシェムリアップ州のソトニクム保健行政区では、妊婦さんが自宅で出産したり、
十分な健診を受けられないまま出産当日を迎えたりするという課題があり、
妊婦と新生児の安全な出産環境の整備を通じて、母子の命と健康を守ることを目的として活動をすすめてきました。
そんな中、2025年度は「連合・愛のカンパ」からの温かいご支援をいただき、
妊婦健診の受診率が特に低い3つの地域で「お産準備キット」を配布する活動を行いました。

健診を無事に終え、笑顔でキットを受け取るお母さん

●健診4回、それは「安心」へのステップ
このプロジェクトでは、母子の健康を守るために大切な「4回の妊婦健診」をすべて受けた女性へ、お祝いと応援の気持ちを込めて「お産準備キット」をプレゼントします。
ただし、このキットは永遠にプレゼントしつづけることが目的ではなく、あくまでも、今回の事業期間における「健診受診のきっかけ」をつくるための、一時的な取り組みです。
まずは一人でも多くの妊婦さんに保健センターへ足を運んでもらい、「健診で安心できた」「異常を早く見つけてもらえた」
「安全な出産につながった」といった前向きな体験を得ていただくことが目的です。
さらに、出産を終えた女性がその経験を周囲に語っていくことで、次の妊婦さんたちが自然と妊婦健診に足を運ぶ、
そんな循環をつくり出すことを目指しています。

【キットの中身】
石けん
大小のタオル
赤ちゃん用の可愛いキャップ
おくるみ

これらはすべて、現地のニーズに合わせて選んだものです。
例えば、石けんで手や体を清潔に保つことは、産後の感染症を防ぐためにとても重要です。
また、柔らかいタオルやおくるみは、生まれたばかりの赤ちゃんを温かく包み込みます。

●嬉しい変化が見えてきました
「キットをもらえるから、頑張って保健センターに行ってみようかな」
そんなきっかけ作りから始まったこの活動ですが、嬉しい成果が出ています。
対象地域の一つであるコンポンクレン保健センターでは、4回の健診をしっかり受ける妊婦さんの割合が、前年の51.8%から74.1%へと大きくアップしました!
単に物を配るだけでなく、「保健センターに行けば、助産師さんに相談できて安心」「清潔なお産ができる」という意識が地域のお母さんたちの間に広まりつつあります。

 

【本活動は「連合・愛のカンパ」より助成をいただき実施しました。】

出張レポート後編:吸引分娩器寄贈のフォローアップ

ー現地と日本をつないだオンライン支援ー

海外事業担当(助産師)の宮副です。
前回のカンボジア出張レポートの後編として2025年2月に株式会社三幸製作所より寄贈いただいた分娩吸引器について、その後をご報告します。
今回、寄贈先の医療施設で直面していた運用上の課題に対し、日本と現地をオンラインで結び、現地の医療者が寄贈元の技術者から直接アドバイスを受けることで問題を解消した事例をご紹介します。

吸引分娩器使用時のセッティング

● 保健センターでの不具合の確認

アンロンサムノ保健センターに寄贈された分娩吸引器と助産師

アンロンサムノ保健センターでは、これまでに3回ほど吸引分娩器の使用実績がありました。2025年10月に出張したPHJスタッフが当保健センターを訪問し、「吸引圧が弱いように感じる」との報告を受けていました。

この点について三幸製作所へ状況を共有し、オンラインでの助言を依頼したところ、
「実際の状態を確認してみましょう」と、快諾いただきました。
寄贈時にもご協力いただいた三幸製作所グループの技術者の方とオンラインでつなぎ、現地での状況を一緒に確認することとなりました。

そして12月の出張時、アンロンサムノ保健センターにて機器を前に、現地スタッフ、そして所長の通訳を介して、日本の技術者の方とつなぎました。
日本語・英語・クメール語の3言語でやり取りを行いながら確認を進めましたので、事象の共有には時間を要しましたが、その分、丁寧な確認が行われました。

結果、吸引圧の弱さは誤ったサイズの吸引チューブが接続されていたことが原因であることが判明しました。念のため、正しいサイズのチューブを用いて、作動状況をすべて再確認しました。
スマートフォンで実際の動きを映しながら技術者の指示を受け、通訳を介して現地スタッフにも共有し、機器そのものに不具合がないことが確認できました。

原因は、使用時に異なるサイズのチューブが混ざってしまい、どれが正しいものか分からなくなってしまったことでした。これは想定外の事態であったため、今後同様の混乱が起きないよう、不要なサイズのチューブは回収する対応を取ることとしました。

●地方病院での確認

地方病院に寄贈された分娩吸引器と医師

寄贈した分娩吸引器を医師が使用している地方病院では、大きな問題はないだろうと考えて訪問しましたが、「時々、接続部が外れてしまうことがある」との相談を受けました。
日本ではあまり経験のない事象であったため、実際にモデル人形を使用し、圧をかけたところ、接続部が外れることはなく、圧にも問題はみられませんでした。
ただ、チューブの状態を確認したところ、先端付近に小さな亀裂が見つかりました。亀裂部分は、長さに余裕があったため念のためカットしました。

この点についても技術者の方に相談しましたが、同様の見解が示されました。考えられることとして、接続部の清掃状況や使用時の持ち方や力のかけ方についてはアドバイスをいただき、病院では複数の医師で使用するため、全体に周知することも伝えました。念のため、三幸製作所よりチューブの予備を提供いただいており、次回の出張時に現地へ持参する予定です。

● 機材寄贈と「その後」の大切さ
今回の対応を通じて、医療機器の寄贈には、使用開始後のフォローアップが不可欠であることを改めて実感しました。

現地の医療者がどのような点で戸惑い、どのような判断をしてしまうのかが明らかになったのは、機器が実際の現場で必要に応じて使用されていたこと、そして疑問や違和感を「報告してもらえる関係性」があったからではないかと考えます。

私たちは、機材を提供して終わりにしないことを重視してきました。
そのような中で、三幸製作所の技術者の方には、国を越えてオンラインで丁寧にご対応いただき、現地スタッフにとっても学びの機会となりました。
一見すると小さな不具合に思えることでも、現地では、医療機器についてすぐに相談できる専門家が身近にいないことがほとんどです。
その結果、「使えないのではないか」と判断され、せっかくの機材が使われないまま保管されてしまうことも少なくありません。
そうした状況を防ぐため、今回のようなフォローアップを行うことは重要だと考えます。今後もこうした連携を大切にしながら、寄贈した機材が現場で安全に、そして確実に活用されるよう支援を続けていきます。

出張レポート前編:地域に広がる「安心して産む」という選択

海外事業担当(助産師)の宮副です。12月8日から19日にかけて、事業地のあるカンボジア シェムリアップ州へ出張しました。
JICA草の根技術協力事業での活動も3年目の終盤にさしかかっています。
今回は、保健センターや地方リファラル病院の視察、助産師会議への参加、地域住民へのインタビューを通して、
PHJの活動が地域にどのような影響を与えているのかを確認するため、現地を訪れました。

地域住民対象の母子保健教育の様子

事業地の訪問では、保健ボランティアによる保健教育に同行し、産後の女性に個別インタビューを行いました。
いずれの女性も複数回の出産を経験しており、妊娠・出産を重ねる中での考え方や選択の変化について話を聞くことができました。
本報告では、こうした女性たちの声をもとに、地域住民が「安全なお産」をどのように捉えているのか、また妊婦健診や保健指導にどのような質を求めているのかについてご紹介します。

1人目の女性は、3回の出産すべてにおいて自分自身で出産場所を選んでいました。
女性は、総合的な治療が受けられる病院を選択していました。
その理由を聞くと、もともと持病があり、妊娠中も治療を続けていたことから、自身の体の状態をよく理解したうえで、
「安心して出産できること」を重視していた様子がうかがえました。出産後には、医師や助産師が定期的に様子を見に来てくれたことや、
退院時に十分な説明と保健指導を受けられたことが安心につながったと話していました。自身の健康状態や受けたケアについて、自分の言葉で説明する姿が印象的でした。

2人目の女性も3回の出産経験があり、過去2回の出産では、家族の勧めによって出産場所が決められていました。
この女性も総合的な治療が受けられる病院で出産しており、妊娠・出産を振り返る中で、「退院前に保健教育があり、きちんと説明してもらえたことがよかった」と話していました。

妊婦健診の待合室(保健センター)

お二人の話から共通して見えてきたのは、出産場所の選択において、
「より安全で安心できること」が重視されているという点でした。
保健センターでは助産師が対応し、異常が見られた場合には、医師が常駐する病院へ搬送する体制が整えられています。
それでも、1人目の女性のように健康状態に不安を感じており、可能であれば、より医療体制の整った場所で出産したいと考えることは、ごく自然なものだといえます。
こうした意見は、特定の施設を否定するものではなく、出産の安全性をより重視する意識が高まってきていることの表れだと考えられます。

今回のインタビューは限られた人数ではありますが、「安全なお産」が、医療設備の有無だけでなく、妊娠中から産後にかけての説明や声かけ、
継続的な関わりによって支えられていることが垣間見えました。近年では、インターネットを通じてさまざまな情報に触れる機会が増えていますが、それらの情報が必ずしも正確であるとは限りません。
そのため、妊婦健診や保健ボランティアによる保健教育の場で、正しい情報に触れ、疑問や不安を相談できる機会を持つことが、より重要になってきていると感じられます。

産後健診中の母子

現在、ソトニクム保健行政区では道路整備などにより一部の地域では医療機関へのアクセスが改善しています。一方で、中心部から離れた地域に暮らす人々にとって、身近な保健センターが果たす役割は今も重要です。そのため、保健センターにおける妊婦健診や保健指導の質を高めていくことは、地域全体で安全なお産を支えていくうえで欠かせない取り組みだと考えています。

今回ご紹介した産婦の声からは、出産に対する意識や、求められるケアの質が少しずつ変わってきている兆しが見えてきました。
PHJの活動では、事業地の助産師による保健教育や、保健ボランティアによる家庭訪問の技術力が向上してきていることも報告されています。
本事業は残りわずかな期間となっていますが、これまで妊娠期を中心に積み重ねてきた取り組みを踏まえ、
今後は産後の時期も見据えながら、妊産婦が安心して出産・育児を迎えられる環境づくりにつなげていきたいと考えています。

【本事業はJICA草の根技術協力事業とサポーター企業・団体、個人の皆様からのご支援により実施しています。】

国境紛争によるカンボジア国内避難民への支援

2025年7月24日(木)にタイ・カンボジア両国の国境地帯で発生した武力衝突を受け、国境地帯には避難勧告が出されました。
WHOの報告によると、カンボジアの国内避難民は15万人にものぼりました。

PHJの事業地シェムリアップ州にも国境付近から大勢の人々が避難し、事業地内にも複数の避難民キャンプが設置されました。
避難民は地面にテントを張り、厳しい生活を余儀なくされています。

特に規模の大きい約2000人(約650世帯)が滞在する避難民キャンプを視察し、ソトニクム保健行政区の要請に基づいて、生活用水のコンテナ12個を支援しました。

8月に入り、避難民が徐々に帰還していますが、
事業地内には約750人(約200世帯)の人々が残って生活しています。

カンボジア国内の支援により飲料水や食料は提供されているものの、衛生環境の悪化が懸念されています。
この状況を受け、ソトニクム保健行政区の要請に基づき、
PHJは、石鹸、歯ブラシ、歯磨き粉、洗剤が入った衛生キットを231セット寄贈しました。

 

 

遠隔地への訪問支援で妊婦健診を実施

PHJは、保健センタースタッフが遠隔村を訪問して予防接種を行うサービスをサポートしています。(詳しくは2024年12月のレポートへ)

予防接種の機会を活かし、母子保健や衛生、デング熱やマラリアの予防に関する教育や指導も行っています。
今月は対象18村のうちの5村で、訪問支援を行いました。
また助産師が同行しているため、妊婦5人が妊婦健診を受けることができました。

対象地域は山岳地域で道路が未整備で、交通の便も悪く、
保健センターから片道3時間以上かかる村もあるため、
妊娠・出産や健康上に問題を抱えていても、医療施設へ足が向かない、という課題があります。
しかし、訪問支援を継続してきたおかげで、ある男性は
「保健センタースタッフの感じが良かったから、妻が出産するときは保健センターへ連れて行きたい」と話してくれました。

訪問支援サービスは、保健センタースタッフ、保健ボランティア、そして地域コミュニティの協力によって実施しています。
こうした関係の中で信頼が築かれ、地域全体で持続的に健康づくりに取り組むための基盤が強化されています。
【本事業は横河商事株式会社様からのご支援により実施しています。】

知識の定着に向けた継続的な保健教育を

安全安心な妊娠と出産にかかわる適切な知識の普及のため、
地域住民を対象とした保健ボランティアによる保健教育・啓発活動を進めています。
その背景として、妊娠中に身体を温めるためにお酒を飲む、などの妊産婦の健康を害する恐れのある伝統的な風習が根強い傾向にあり、
また、保健施設の医療者に対する不信感や保健サービスに対する抵抗感を抱いている、といった実態が見えています。
支援対象村では、保健ボランティアによる地域住民への保健教育を2回実施しました。

しかし、長年築いてきた習慣を変えたり、医療機関への信頼を高めることは、
そう簡単なことではありません。そのため保健教育を繰り返して実施する必要があり、3回目を計画しています。
そこで、保健ボランティア会議で、事前に保健教育の実施にあたって復習を行い、準備を進めました。

保健ボランティアの中には、保健教育を実施することに慣れていなかったり、伝え方がわからなかったりする人も
います。

会議では、講師となる保健センタースタッフが保健ボランティアから質問を受け、保健教育の実施上の疑問や不安を解消し、
自信をもって保健教育に臨めるようにサポートしました。


【本事業はJICA草の根技術協力事業とサポーター企業・団体、個人の皆様からのご支援により実施しています。】

出張レポート:後編「助産師と保健ボランティアの研修、村での保健教育の実際」

カンボジア事業担当(助産師)の宮副です。
前回に続き、カンボジア事業の視察報告です。

PHJでは、プロジェクト活動の一環として、保健センタースタッフやボランティアの知識・技術向上のための研修を行っています。今回はその中から、助産師対象の研修と保健ボランティア対象の研修の様子をお伝えします。

【助産師研修】
2月は「人間的なお産」をテーマにした研修が開催されました。25か所の保健センターの助産師を対象に座学と実技の両面から学ぶ10日間のプログラムです。
「人間的なお産」とは、妊産婦さん一人ひとりに寄り添い、安全かつ安心して出産できる環境を整えること。
必要な医療介入は適切なタイミングで行いながら、妊産婦さんの気持ちや尊厳が大切にされることを目指す考え方です。
今回の研修は、JICAの「カンボジア王国 助産能力強化を通じた母子保健改善プロジェクト 」の内容を参考にしています。
講師からは「助産師の知識や技術レベルに差がある」との指摘がありしっかりと学びなおす機会となりました。
内容は、妊娠・分娩・産後・新生児ケアまで幅広く、私が視察した日は主に分娩期を中心に進められていました。午前は実技、午後は座学とテストによる復習というスケジュールです。

研修を終えた助産師たちからは、「妊婦健診から分娩介助まで、一連の流れを改めて整理できた」「スキルアップにつながった」「妊婦さんや産後のお母さんに、もっと寄り添ったケアを心がけたい」といった声が聞かれました。

カンボジアの保健センターでは、助産師が24時間体制で待機していますが、人数も物品も必要最小限。
経験の浅いスタッフも多く、日本のように先輩が手厚くフォローする体制ありません。正常と異常の判断ができるようになるまで、現場で経験を積むしかないのが現状です。
だからこそ、今回のような研修はとても貴重な機会です。学んだ内容を持ち帰り、スタッフ同士で共有し、振り返りを重ねていくことが、よりよい妊産婦ケアにつながります。

【保健ボランティアの能力強化研修】
保健センターの助産師や看護師だけでは、地域すべての妊産婦さんに十分な支援が行き届くわけではありません。
そこで大きな役割を担うのが、地域と保健センターをつなぐ「保健ボランティア」の存在です。この研修では助産師が講師となり、妊娠中の保健教育について座学と実技チェックを行いました。

〈主な内容〉
・妊婦健診4回受診の推奨と産前ケア
・出産予定場所、交通手段、緊急時の移送について
・妊娠中の栄養と経済的な備え
・妊娠中の危険な兆候と病院受診について
・新生児ケアについて
ボランティア
実践形式のグループワークも行われ、活発な意見交換が行われていました。

今回の研修は2回目だったこともあり、参加者の発言や演習の態度から自信が感じられました。

 

ボランティア研修の後は・・・
研修を受けたボランティアは、実際に村で保健教育の活動を行います。

今回同行した活動でも朝早い時間にも関わらず、多くの住民が集いました。
話の途中で自由に質問が出るなど、にぎやかで和やかな雰囲気です。
緊張しているボランティアもいましたが、回数を重ねるごとに少しずつ慣れてきているようでした。

地域住民への保健教育
家庭訪問による保健教育

日本のように「異常があれば入院する」という仕組みは、ここにはありません。
だからこそ、日々の生活の中でどう過ごすか、どんな時に受診すればよいのか、こうした保健教育はとても重要です。

また、妊婦さん本人だけでなく、その家族への理解を広げることも大切です。文化的に男性の意見が重視される場面も多いため、男性ボランティアの存在や、さまざまな世代の参加が活動の鍵となります。

【おわりに】
助産師と保健ボランティア、保健ボランティアと地域住民。
それぞれが信頼関係を築き、連携していくことが安心・安全なお産につながります。

最終的な目標は、こうした活動が現地の人たち自身の手で続いていくこと。地域の力で、母と子の健康を守れる仕組みづくりをこれからも目指していきます。

【本事業はJICA草の根技術協力事業とサポーター企業・団体、個人の皆様からのご支援により実施しています。】

出張レポート:前編「吸引分娩器の技術指導ワークショップ開催」

海外事業担当(助産師)の宮副です。昨年11月よりカンボジア事業を担当しています。

2月16日から28日にかけて事業地のあるシェムリアップ州へ出張しました。主な目的はJICA草の根技術協力事業における助産師と保健ボランティアの能力強化研修の実施モニタリングと活動の視察です。加えて、今回、医療施設での安全なお産のために、株式会社三幸製作所から吸引分娩器を寄贈いただき、これを使用する現地の医療従事者を対象にした技術指導ワークショップを行いました。

まず、今回は2月19、20日に行われた吸引分娩器の技術支援についてお伝えします。

寄贈いただいた新しい吸引分娩器

吸引分娩とは、何らかの理由で、お産がスムーズに進まない際に行われる出産方法のひとつです。お産まであと一歩という場面で、吸引圧によって赤ちゃんを引き出します。
カンボジアの事業地にある保健センターでは手動の吸引分娩器がありますが古いものでした。
また地方病院には日本でも使用されているような、ディスポ(使い捨て)タイプの吸引器がありますが、現地では高価で1回で破棄しなければいけないので、コストがかかるという現状がありました。そこで再利用が可能で、コスト面での課題を大幅に解消する吸引分娩器を寄贈いただきました。さらに新しい吸引分娩器を寄贈先の医療施設で適切に扱えるよう、三幸製作所グループの社員の方に、カンボジア現地で技術指導もしていただくことになりました。

■1日目(2月19日):技術指導ワークショップの準備
翌日の医療従事者対象の技術指導ワークショップでスムーズに説明ができるよう、PHJカンボジア事務所に三幸製作所グループの社員お二人にお越しいただき、吸引器の組み立て方や構造について説明を受けました。

PHJ現地スタッフに説明する三幸製作所グループ社員のお二人

トレーニング用の新生児のマネキンを使用しての吸引分娩のデモンストレーションや、吸引カップの取り扱いや、長距離の移送に関しての注意事項を確認しました。
用意いただいたワークショップ用のスライドや動画の日本語は、英語からクメール語に翻訳。 ワークショップ当日は現地スタッフが読み上げるため、スライドと照らし合わせながら練習を行いました。

吸引器の取り扱いを説明
スライドで詳しく説明

■2日目(2月20日):医師、助産師へ向けたワークショップ
ソトニクム保健行政区にて、現地の医師や助産師を対象にワークショップを開催しました。(日本では吸引分娩器を扱うのは医師のみですが、カンボジアでは助産師も扱います。)

三幸製作所グループのお二人が講師となり、参加者に操作手順を説明しながら、器械に触れて手技を参加者に体験してもらい、その後器械の取り扱い、使用方法をスライドと動画で説明しました。

地方病院の医師によりガイドラインに沿った吸引分娩についての講義もありました。

医師からは「現在使用している手動吸引器は高価で使い捨てであるため、洗浄・滅菌可能な今回の吸引器はありがたい」と喜んでいただきました。

ワークショップを開くにあたり、最初はうまく進められるか少し不安もありました。でも、参加者のみなさんが積極的に質問し、器械に触れ、話し合う中で、新しい気づきや学びがたくさん生まれたと感じています。現地の医師による講義でも、吸引器を使うときの条件やリスク、合併症について分かりやすく説明していただき、とても充実した時間になりました。

ワークショップを通じて、現地の医療スタッフが安全かつ適切に吸引器を使用できるよう支援を行いました。寄贈した医療機器が現場でどのように活用されるか、引き続きフォローアップを行い、現地のニーズに即した支援を継続していきます。

次回は、助産師さんの研修の様子や、村を訪れて見えた保健ボランティアの活動についてお伝えしたいと思います。


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