出張レポート後編:吸引分娩器寄贈のフォローアップ

ー現地と日本をつないだオンライン支援ー

海外事業担当(助産師)の宮副です。
前回のカンボジア出張レポートの後編として2025年2月に株式会社三幸製作所より寄贈いただいた分娩吸引器について、その後をご報告します。
今回、寄贈先の医療施設で直面していた運用上の課題に対し、日本と現地をオンラインで結び、現地の医療者が寄贈元の技術者から直接アドバイスを受けることで問題を解消した事例をご紹介します。

吸引分娩器使用時のセッティング

● 保健センターでの不具合の確認

アンロンサムノ保健センターに寄贈された分娩吸引器と助産師

アンロンサムノ保健センターでは、これまでに3回ほど吸引分娩器の使用実績がありました。2025年10月に出張したPHJスタッフが当保健センターを訪問し、「吸引圧が弱いように感じる」との報告を受けていました。

この点について三幸製作所へ状況を共有し、オンラインでの助言を依頼したところ、
「実際の状態を確認してみましょう」と、快諾いただきました。
寄贈時にもご協力いただいた三幸製作所グループの技術者の方とオンラインでつなぎ、現地での状況を一緒に確認することとなりました。

そして12月の出張時、アンロンサムノ保健センターにて機器を前に、現地スタッフ、そして所長の通訳を介して、日本の技術者の方とつなぎました。
日本語・英語・クメール語の3言語でやり取りを行いながら確認を進めましたので、事象の共有には時間を要しましたが、その分、丁寧な確認が行われました。

結果、吸引圧の弱さは誤ったサイズの吸引チューブが接続されていたことが原因であることが判明しました。念のため、正しいサイズのチューブを用いて、作動状況をすべて再確認しました。
スマートフォンで実際の動きを映しながら技術者の指示を受け、通訳を介して現地スタッフにも共有し、機器そのものに不具合がないことが確認できました。

原因は、使用時に異なるサイズのチューブが混ざってしまい、どれが正しいものか分からなくなってしまったことでした。これは想定外の事態であったため、今後同様の混乱が起きないよう、不要なサイズのチューブは回収する対応を取ることとしました。

●地方病院での確認

地方病院に寄贈された分娩吸引器と医師

寄贈した分娩吸引器を医師が使用している地方病院では、大きな問題はないだろうと考えて訪問しましたが、「時々、接続部が外れてしまうことがある」との相談を受けました。
日本ではあまり経験のない事象であったため、実際にモデル人形を使用し、圧をかけたところ、接続部が外れることはなく、圧にも問題はみられませんでした。
ただ、チューブの状態を確認したところ、先端付近に小さな亀裂が見つかりました。亀裂部分は、長さに余裕があったため念のためカットしました。

この点についても技術者の方に相談しましたが、同様の見解が示されました。考えられることとして、接続部の清掃状況や使用時の持ち方や力のかけ方についてはアドバイスをいただき、病院では複数の医師で使用するため、全体に周知することも伝えました。念のため、三幸製作所よりチューブの予備を提供いただいており、次回の出張時に現地へ持参する予定です。

● 機材寄贈と「その後」の大切さ
今回の対応を通じて、医療機器の寄贈には、使用開始後のフォローアップが不可欠であることを改めて実感しました。

現地の医療者がどのような点で戸惑い、どのような判断をしてしまうのかが明らかになったのは、機器が実際の現場で必要に応じて使用されていたこと、そして疑問や違和感を「報告してもらえる関係性」があったからではないかと考えます。

私たちは、機材を提供して終わりにしないことを重視してきました。
そのような中で、三幸製作所の技術者の方には、国を越えてオンラインで丁寧にご対応いただき、現地スタッフにとっても学びの機会となりました。
一見すると小さな不具合に思えることでも、現地では、医療機器についてすぐに相談できる専門家が身近にいないことがほとんどです。
その結果、「使えないのではないか」と判断され、せっかくの機材が使われないまま保管されてしまうことも少なくありません。
そうした状況を防ぐため、今回のようなフォローアップを行うことは重要だと考えます。今後もこうした連携を大切にしながら、寄贈した機材が現場で安全に、そして確実に活用されるよう支援を続けていきます。

出張レポート前編:地域に広がる「安心して産む」という選択

海外事業担当(助産師)の宮副です。12月8日から19日にかけて、事業地のあるカンボジア シェムリアップ州へ出張しました。
JICA草の根技術協力事業での活動も3年目の終盤にさしかかっています。
今回は、保健センターや地方リファラル病院の視察、助産師会議への参加、地域住民へのインタビューを通して、
PHJの活動が地域にどのような影響を与えているのかを確認するため、現地を訪れました。

地域住民対象の母子保健教育の様子

事業地の訪問では、保健ボランティアによる保健教育に同行し、産後の女性に個別インタビューを行いました。
いずれの女性も複数回の出産を経験しており、妊娠・出産を重ねる中での考え方や選択の変化について話を聞くことができました。
本報告では、こうした女性たちの声をもとに、地域住民が「安全なお産」をどのように捉えているのか、また妊婦健診や保健指導にどのような質を求めているのかについてご紹介します。

1人目の女性は、3回の出産すべてにおいて自分自身で出産場所を選んでいました。
女性は、総合的な治療が受けられる病院を選択していました。
その理由を聞くと、もともと持病があり、妊娠中も治療を続けていたことから、自身の体の状態をよく理解したうえで、
「安心して出産できること」を重視していた様子がうかがえました。出産後には、医師や助産師が定期的に様子を見に来てくれたことや、
退院時に十分な説明と保健指導を受けられたことが安心につながったと話していました。自身の健康状態や受けたケアについて、自分の言葉で説明する姿が印象的でした。

2人目の女性も3回の出産経験があり、過去2回の出産では、家族の勧めによって出産場所が決められていました。
この女性も総合的な治療が受けられる病院で出産しており、妊娠・出産を振り返る中で、「退院前に保健教育があり、きちんと説明してもらえたことがよかった」と話していました。

妊婦健診の待合室(保健センター)

お二人の話から共通して見えてきたのは、出産場所の選択において、
「より安全で安心できること」が重視されているという点でした。
保健センターでは助産師が対応し、異常が見られた場合には、医師が常駐する病院へ搬送する体制が整えられています。
それでも、1人目の女性のように健康状態に不安を感じており、可能であれば、より医療体制の整った場所で出産したいと考えることは、ごく自然なものだといえます。
こうした意見は、特定の施設を否定するものではなく、出産の安全性をより重視する意識が高まってきていることの表れだと考えられます。

今回のインタビューは限られた人数ではありますが、「安全なお産」が、医療設備の有無だけでなく、妊娠中から産後にかけての説明や声かけ、
継続的な関わりによって支えられていることが垣間見えました。近年では、インターネットを通じてさまざまな情報に触れる機会が増えていますが、それらの情報が必ずしも正確であるとは限りません。
そのため、妊婦健診や保健ボランティアによる保健教育の場で、正しい情報に触れ、疑問や不安を相談できる機会を持つことが、より重要になってきていると感じられます。

産後健診中の母子

現在、ソトニクム保健行政区では道路整備などにより一部の地域では医療機関へのアクセスが改善しています。一方で、中心部から離れた地域に暮らす人々にとって、身近な保健センターが果たす役割は今も重要です。そのため、保健センターにおける妊婦健診や保健指導の質を高めていくことは、地域全体で安全なお産を支えていくうえで欠かせない取り組みだと考えています。

今回ご紹介した産婦の声からは、出産に対する意識や、求められるケアの質が少しずつ変わってきている兆しが見えてきました。
PHJの活動では、事業地の助産師による保健教育や、保健ボランティアによる家庭訪問の技術力が向上してきていることも報告されています。
本事業は残りわずかな期間となっていますが、これまで妊娠期を中心に積み重ねてきた取り組みを踏まえ、
今後は産後の時期も見据えながら、妊産婦が安心して出産・育児を迎えられる環境づくりにつなげていきたいと考えています。

【本事業はJICA草の根技術協力事業とサポーター企業・団体、個人の皆様からのご支援により実施しています。】


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