出張レポート前編:地域に広がる「安心して産む」という選択
海外事業担当(助産師)の宮副です。12月8日から19日にかけて、事業地のあるカンボジア シェムリアップ州へ出張しました。
JICA草の根技術協力事業での活動も3年目の終盤にさしかかっています。
今回は、保健センターや地方リファラル病院の視察、助産師会議への参加、地域住民へのインタビューを通して、
PHJの活動が地域にどのような影響を与えているのかを確認するため、現地を訪れました。

事業地の訪問では、保健ボランティアによる保健教育に同行し、産後の女性に個別インタビューを行いました。
いずれの女性も複数回の出産を経験しており、妊娠・出産を重ねる中での考え方や選択の変化について話を聞くことができました。
本報告では、こうした女性たちの声をもとに、地域住民が「安全なお産」をどのように捉えているのか、また妊婦健診や保健指導にどのような質を求めているのかについてご紹介します。
1人目の女性は、3回の出産すべてにおいて自分自身で出産場所を選んでいました。
女性は、総合的な治療が受けられる病院を選択していました。
その理由を聞くと、もともと持病があり、妊娠中も治療を続けていたことから、自身の体の状態をよく理解したうえで、
「安心して出産できること」を重視していた様子がうかがえました。出産後には、医師や助産師が定期的に様子を見に来てくれたことや、
退院時に十分な説明と保健指導を受けられたことが安心につながったと話していました。自身の健康状態や受けたケアについて、自分の言葉で説明する姿が印象的でした。
2人目の女性も3回の出産経験があり、過去2回の出産では、家族の勧めによって出産場所が決められていました。
この女性も総合的な治療が受けられる病院で出産しており、妊娠・出産を振り返る中で、「退院前に保健教育があり、きちんと説明してもらえたことがよかった」と話していました。
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お二人の話から共通して見えてきたのは、出産場所の選択において、
「より安全で安心できること」が重視されているという点でした。
保健センターでは助産師が対応し、異常が見られた場合には、医師が常駐する病院へ搬送する体制が整えられています。
それでも、1人目の女性のように健康状態に不安を感じており、可能であれば、より医療体制の整った場所で出産したいと考えることは、ごく自然なものだといえます。
こうした意見は、特定の施設を否定するものではなく、出産の安全性をより重視する意識が高まってきていることの表れだと考えられます。
今回のインタビューは限られた人数ではありますが、「安全なお産」が、医療設備の有無だけでなく、妊娠中から産後にかけての説明や声かけ、
継続的な関わりによって支えられていることが垣間見えました。近年では、インターネットを通じてさまざまな情報に触れる機会が増えていますが、それらの情報が必ずしも正確であるとは限りません。
そのため、妊婦健診や保健ボランティアによる保健教育の場で、正しい情報に触れ、疑問や不安を相談できる機会を持つことが、より重要になってきていると感じられます。
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現在、ソトニクム保健行政区では道路整備などにより一部の地域では医療機関へのアクセスが改善しています。一方で、中心部から離れた地域に暮らす人々にとって、身近な保健センターが果たす役割は今も重要です。そのため、保健センターにおける妊婦健診や保健指導の質を高めていくことは、地域全体で安全なお産を支えていくうえで欠かせない取り組みだと考えています。
今回ご紹介した産婦の声からは、出産に対する意識や、求められるケアの質が少しずつ変わってきている兆しが見えてきました。
PHJの活動では、事業地の助産師による保健教育や、保健ボランティアによる家庭訪問の技術力が向上してきていることも報告されています。
本事業は残りわずかな期間となっていますが、これまで妊娠期を中心に積み重ねてきた取り組みを踏まえ、
今後は産後の時期も見据えながら、妊産婦が安心して出産・育児を迎えられる環境づくりにつなげていきたいと考えています。
【本事業はJICA草の根技術協力事業とサポーター企業・団体、個人の皆様からのご支援により実施しています。】